こんにちは!
現役ママ薬剤師の安美です。
先日、爪水虫の内服薬(飲み薬)としてよく使われているイトラコナゾール錠50「MEEK」 が自主回収となりました。
薬の自主回収っていうのは、
健康被害が出る恐れがある薬を製薬メーカーが自主的に回収、出荷停止にすること。
しかも、今回はすでに、意識消失やろれつがまわらない、車の運転による事故など健康被害が出ています。
この記事ではイトラコナゾール錠50「MEEK」の自主回収について詳しくお話します。
爪水虫の薬、イトラコナゾール錠50「MEEK」後発医薬品の自主回収の理由とは?
今回自主回収されたイトラコナゾール錠「MEEK」は、イトリゾールの後発薬(ジェネリック医薬品)です。
福井県あわら市にある小林化工株式会社(小林化工)が製造販売しているのが、イトラコナゾール錠「MEEK」です。
先発品のイトリゾールや「MEEK」以外の他のメーカーのイトラコナゾール錠は問題ありません。
「MEEK」って何?って思いますよね。
ジェネリック医薬品の場合、薬の名前(一般名、成分名)の後に「」書きでメーカー名がつくことが多いです。
「MEEK」の場合、小林化工が製造販売承認を取得した製品で明治製菓(Meiji Seika ファルマ)も販売している医薬品だと思われます。
後発医薬品(ジェネリック医薬品)については、後発薬の値段が安いのはなぜ?ジェネリック医薬品で賢く医療費を節約に詳しく書いています。
今回、イトラコナゾール錠が自主回収になったのは、2つの理由があります。
1:患者さんからの副作用報告を受けて調査した結果、
イトラコナゾールとは異なる医薬品の成分「リルマザホン塩酸塩水和物(睡眠導入剤)」が混入している事実が判明したためです。
「回収分類クラス1=その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況」に相当。
さらに、
2:厚生労働省の承認を得ていない工程で薬が製造されたことも判明したため、自主回収の規模が拡大となりました。
「回収分類クラス2=その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。 」に相当。
2020年12月12日時点の報道によると、
処方された31都道府県の全患者364人に服用中止の連絡が完了したとのことです。
自主回収のイトラコナゾール錠50「MEEK」の健康被害とは?
自主回収となったイトラコナゾール錠に混入していた「リルマザホン塩酸塩水和物」は睡眠導入剤(睡眠薬)の有効成分です。
(先発品の名前はリスミー)
実際に使われている薬で、脳にあるベンゾジアゼピン受容体(BZD受容体)を刺激して、脳の活動を抑えることで眠りやすくして睡眠障害などを改善します。
日本薬剤師会発行の日薬ニュース号外によると、
医師の指示通りの量を1日4錠服用した場合、リルマザホン塩酸塩水和物が20mgを飲んだことになる。
この量は、リルマザホン塩酸塩の通常量の10~20倍と過剰になってしまう。
このため、本来、イトラコナゾール錠を飲んでも起きない
ふらつき、意識消失、転倒、記憶消失、重度の傾眠、意識もうろうなどの精神神経系の症状が発生した場合は、混入しているリルマザホン塩酸塩水和物による健康被害が想定される。
12 月 6 日時点、報告された健康被害は 63 件。
甚大な健康被害として、交通事故(自損)8件、精神・神経系の症状による緊急搬送4件・入院6件が報告されているそうです。
【健康被害の具体的な症例】
・服用直後に意識消失、救急搬送された
・ふらつき、その後に体調不良が見られ、救急搬送された
・眠気、モノが二重に見え、自動車の運転中に意識消失し中央分離帯に接触した
・ろれつがまわらない等の症状で救急搬送され入院、原因不明のまま退院、服薬を再開したところ症状が繰り返した
とのことです。
12月12日追記:
イトラコナゾール錠50「MEEK」を服用して入院中の1人が10日に死亡したと発表されました。
爪水虫の薬って塗り薬を思い浮かべるかもしれませんが、飲み薬もよく使われています。
その場合、1回に200mg(イトラコナゾール錠50「MEEK」を4錠)飲むのが一般的です。
イトラコナゾール錠50「MEEK」1錠に睡眠薬成分のリルマザホンが5mg混入というと、1回に20mgを飲んだことになります。
睡眠薬としてリルマザホンを飲む場合は1回に1~2mgです。
問題のイトラコナゾール錠50「MEEK」を爪水虫の治療のために飲んだ場合、約10~20倍の量と過剰量を飲んでしまったことになります。
こう考えると、ふらつきや意識消失などの体調変化が出るのは当たり前ですね・・・。
以前、胃薬のラニチジン錠(ザンタック錠)や糖尿病の薬のメトグルコ錠でも発がん性物質NDMAを含む疑いで自主回収がありました。
この時は健康被害が出る前の予防的処置の意味合いが強いものでしたが、今回は実際に甚大な健康被害が出てしまっています。
この話を聞いて心底驚きました。何があったのでしょうか・・・。
医薬品の製造についてはこと細かく決められていますし、査察を受けて施設のレベルも確保しています。
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づいて、製造から販売、市販後の安全対策まで一貫した規制を行われています。
塩酸リルマザホン錠2「MEEK」という製品もあるので、製造ライン上で何かあったのでしょうか。
一刻も早く原因が判明して、これ以上ジェネリックに対する偏見が広がらないようにと願っています。
2020年12月12日追記
本来の製造工程にない「継ぎ足し作業」の際に睡眠薬成分の混入が起きたとみられています。
製造過程で減った分を補うこと自体が承認された製造手順に反するものです。
その未承認工程で誤って睡眠導入剤の成分を混入させたとのことです。
信じられない内容です。
どうして・・・日常的に・・・?
メーカーの信用だけでなく、ジェネリック医薬品の信用回復のためにもさらに詳細な真相解明をしてほしいです。
ちなみに、睡眠薬成分が混入しているのは、イトラコナゾール錠50「MEEK」の1ロットのみですが、それ以外のロットの区別が難しい場合もあるため、有効期限内の全ロットが回収の対象となっています。
すでにイトラコナゾール錠50「MEEK」を飲んでしまった場合はどうしたらいい?
おそらく、薬局か病院からすでに連絡がいっているとは思いますが、
万が一まだ何も連絡がないという場合は、絶対に飲まないでください。
そして薬局か病院に連絡してください。
自分は特に眠気やふらつきも感じないから大丈夫!なんて思わないでくださいね。
残ったイトラコナゾール錠50については、処方された薬局もしくは処方箋をもらった病院にもっていて返却してください。
ちなみに、イトラコナゾール錠100「MEEK」及びイトラコナゾール錠200「MEEK」は、患者さんからの回収の対象となっていません。
メーカーの説明によると、「承認書に記載のない工程を実施していることが判明したため自主回収となっていますが、出荷前に規格に適合していることは確認しており、服用を継続しても問題ありません。 」とのことです。
それでも心配な場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
値段は高くなりますが、先発薬に戻す、また別のメーカー、日医工や科研からイトラコナゾール錠の後発薬が発売されているので、そちらで治療の継続することも可能です。
他のジェネリック医薬品を飲んでいる方も不安になるかと思いますが、
真面目にしっかりとした品質の薬を提供しているメーカーがほとんどです。
こういう事件が起きて患者さんに不安な気持ちにさせるのは薬剤師としても本当に悲しいです。
さいごに:イトラコナゾール錠(爪水虫の内服薬)自主回収、意識消失の恐れあり
というわけで、
イトラコナゾール錠50「MEEK」の自主回収について詳しくお話してきました。
今回、後発医薬品(ジェネリック医薬品)のイトラコナゾール錠「MEEK」が、睡眠導入剤成分(睡眠薬)の混入や未承認工程で製造により自主回収となりました。
すでに、ふらつきや意識もうろうなどの重大な健康被害、死亡事故の報告もされています。
2020年12月12日時点の報道によると、処方された31都道府県の全患者364人に服用中止の連絡が完了したとのことです。
それでも不安な方、他のジェネリック医薬品を飲んでいて不安な方は薬剤師か医師に相談してくださいね。